思い出として


新しくお茶碗を購入しました。
これまで使っていたものが割れてしまったからです。
それは、私が一人暮らしを始める際、祖母が揃えてくれたものでした。
全部で5客。
それからこれまで、一つ欠け…また一つ欠け…。
祖母は今年3月に亡くなってしまったため、手元に残った3客は私にとっては形見のように感じていました。それでも毎日使っていたのですが、つい先日 食器棚から取り出そうとして手が滑ってしまい、みごとに全部割れてしまいました。
形見だからと大切にしまっておくより、毎日当たり前のように使う方が祖母も喜んでくれるに違いないと思い、そうしてきました。
でも未だに祖母への喪失感を完全には埋められず、そのお茶碗を見るたびに知らず知らずのうちに祖母の生前の姿を追っていました。楽しかったこと、懐かしいこと…。
割れた瞬間、不思議とショックは感じませんでした。
むしろ「ふっ」と目が覚めたような気がしたのです。
たぶん祖母との思い出に立ち止まって動けなくなっていた私の背中を祖母がそっと押してくれたのだと思います。前へと…
止まっていた時計が動き出したかの様に、
やっと心の整理がつきました。
これが祖母から私への最後の贈り物なのだと思います。